| アーティスト特集 第1弾 ブラック・サバス 第六回 78年に『never say die』を上梓した後、ブラックサバスは全米ツアーを行う。オープニング・アクトはヴァン・ヘイレンがつとめた。翌79年にオジーはドラッグ問題の解決のために療養を勧められる。その頃、アイオミがロニー・ジェイムズ・ディオと電話で盛りあがったのをきっかけに、とあるスタジオにてセッションを果たす。フル・ヴォリュームで、即一曲が完成してしまった。そのまま、ディオは後任のヴォーカリストに収まる。そしてオジーはソロ・キャリアを開始してゆく…。 そうして1980年、待望の新アルバム『heaven and hell』が完成。このアルバムの特徴は、メロディ・ラインに非常に気を配っているところだ。オジー時代のサバスはリフ主体の重厚な楽曲が多かった。ところが、このアルバムではコード進行のメロディに重点が置かれており、かつスピードもあるのである。80年代に勃興したN.W.O.B.H.M的な様相も呈する。これらの傾向は、ディオの加入による、レインボーの影響も関係しているだろう。勿論、トニー・アイオミの基本スタイルであるブルース・ギターを基調としている事には変わりはない。 このアルバムは久々にプラチナムを獲得したアルバムであり、Top30入りを果たした。ヘヴィ・メタルのマスター・ピースであり、基礎(典型)である。須らく聴くべきものである。イエロー・モンキーのベーシスト・広瀬氏も相当聴き込んだと言われるアルバムだ。ではアルバムの楽曲紹介に移ろう。 「ネオンの騎士(neon knights)」。スピードがあり、ギターの刻みが心地良い。ビル氏の軽快でアップテンポなドラミングは嘗てなく、実に乗れる。アイオミ氏のギター・ソロは聴きどころであり、アグレッシヴな泣きで魅せる。 「へヴン&ヘル(heaven and hell)」。後半のアップ・テンポの部分に泣きを感じさせる。個人的にはギター・フィル・インよりも刻みに魂を震わされる。最後半のアコースティック・ギターによるアルペジオは淋しさが漂い、深みを醸しだす。 「die young」。ファンの間ではつとに評価の高い名曲だ。東洋的なキーボードの音から始まりアップテンポ。ギターのおかずが豊富な作品である。 「walk away」。ポップな響きがする軽快なナンバー。個人的には、朝の日差しが、緑の並木によって木漏れ日となり、道を自転車で軽快に走らせるというイメージが湧くような爽やかさを感じる。車のCMにも確実に合う事は間違いない。 「lonely is the word」。ブルース的な哀愁漂う楽曲。楽器の全てのパートが際立っている。この曲は長いブルージーなソロが目立つが、ギターとベースとドラムの絡みが実に申し分ない。最後にギターに絡みつつ入るkey.は単調だが感動的ですらある。 ブラックサバスはこの作品によって初来日を果たした。だが、ツアーの途中でドラムのビルが参加を放棄してしまうという事態が起こった。原因は薬物とアルコール、そして怒りであったと本人は語る。翌年81年発表のアルバム『悪魔の掟(mob rules)』は、ビル・ウォードからヴィニー・アピスへと変わりレコーディングされた。 来日した際の記者会見の席で黒魔術に関する質問があった。トニー・アイオミが答えようとするとギーザー・バトラーがアイオミを横目で睨みつける。「こうした場でテーマにすべき話ではない」更に付け加える、「話せない事が多過ぎる」と。アイオミはギーザーの意向に無言の内に従う。これはギーザー・バトラーこそが黒魔術の首謀者であり、ブラックサバスの精神的主柱である事を示唆するものであった。オジー時代の歌詞のコンセプトはほぼギーザーによって支えられ、またバンドの名前のアイデアも氏に拠るものだ。そこから考えると十分に合点がいく出来事である。そもそもギーザー・バトラー氏のオカルト好きは有名な事実である。彼等は、アレックス・サンダース(注)などといった魔法使いとも知り合いであった。 (注)…アレックス・サンダース(1926年生。自称「魔女の王」。自分の名前にちなんだアレクサンドリア派魔女術を創始した。更に予備知識を語れば、魔女という言葉は女性のみを指す言葉ではない。男性であってもWitchという言葉は使用する。
少し英国オカルト事情について説明を加えておこう。英国とは、国民が多くが妖精の存在を信じているような国である。W・B・イエイツのケルト神話の翻訳をしている井村君江氏によると、英国では街に妖精が出たという騒ぎで警察が出動してくれるという。現実の事件に基づいた映画『フェアリーテール』を御覧になったメタル・ファンは少なそうだが、あれが良い例だ。その話のあらすじは次の通りである。 少女二人がいたずら妖精写真を撮って遊んでいた。それを大人の取り上げるところとなり、喧喧諤諤の物議を醸す。その事件が起こった当時、大人達はこぞってその写真は本物だと主張した。シャーロック・ホームズの作者であるアーサー・コナン・ドイルは心霊研究家でもあったが、その信憑性を支持する旗手の一人となった。少女達が大人になった後、結局悪戯であった事を白状するのだが、数枚は本物であると主張しているのである。 W・B・イエイツについても少々説明を加えておきたい。この人は魔術結社「黄金の夜明け団(golden dawn)」の頭領におさまった事もある人物である。ノーベル文学賞受賞者である。彼が頭領ともなったこの魔術結社は、マクレガー・メイザースなどにより設立された。アイルランド生まれの彼はケルト神話などを作品に収めている。 この結社は、かの有名な魔術師アレイスター・クロウリーも頭領となった事もある有名な魔術結社である。クロウリーの名はオジーの楽曲にもあるようにロック系にはしばしば出てくる名前なので御存知の方も多いだろう。ケンブリッジ大学卒業のエリートにして、放蕩者、デカダンス的な人間であった。学生時代はラグビーでもならしている頑健な肉体の持ち主。彼の魔術テクニックは悪魔を召喚し、時間をも超越したという。1947年没している。ちょうどサバスの面面が生まれた時期である。 ケルトに関してはもう少し説明させていただく。日本でも人気の高いエンヤなどはケルトの末裔を名乗る事で有名だ。ドルイドやキング・アーサーなどもケルトの範疇と言えば分かり易いかも知れない。ローマ人は彼等をガリア人と呼び、カエサルのガリア戦記は有名である。彼等の遺跡は、主にアイルランドや南仏に残されている。(英語で、Gallic=仏人の) メタルでは全くないが、同じ英国のアーティストであるT・REXのマーク・ボランの詩にも盛んにケルトに関する語彙が散見される。彼は仏国にて魔女と暮らした事もあるという逸話を残す。恐らく英国人は日本人が安倍晴明や昔話を聞くように、子供の頃に魔法使いの話を聞いているのだろう。サバスのファースト・アルバム『黒い安息日(black sabbath)』の中の「the wizard」の歌詞はまさに白い魔法使いを謳った詩である。 ケルトの説明が過ぎてしまったが、識者によるとレッド・ツェペリンの「天国への階段」などもケルト的な音楽影響が見られるという話である。 蛇足ながら、メタル的なテイストをも持ち、現代漫画界最高峰と名高い『ベルセルク』(三浦建太郎著)において、現在連載されている部分について述べてみる。話の中で目下、行動の目的地としている妖精パックの故郷であるスケルグ島は現実に存在している。スケリグ・ヴィヒールといい、今もケルトの遺跡が残されている。『妖精王』(山岸涼子著)という作品もあったがここでの重要人物であるク・フーリンという人物もやはりケルトの妖精王だ。
上記は標準的な知識として参考にされたい。アーティストでケルトや魔術などに影響を受ける人間は多い。ギーザー・バトラー氏も好んでこうした知識を蓄えていたものと思われる。ハリー・ポッターなどは大人にも読まれているが、ギーザー・バトラー氏も読んでいるかどうかまでは筆者の知るところではない。ブリティッシュ・ロックを好む人方は多いだろう。こうした文化的・社会的背景をメタル追求の深化に供されたい。 2005年2月 akira
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